ウォーレン・バフェット ウォッチャー

"投資の神様"と名高いウォーレン・バフェット氏をウォッチするブログ。同氏がCEOを務めるバークシャー・ハサウェイ社の動向と関連する情報をフォローする。

バフェット後のバークシャー

先週はUBSレポートが話題になりました。レポート自体は読んでいませんが、複数の関連記事を読むと、レポートの内容はBuffettが去った後もBerkshireはs&p 500(つまり市場平均)を上回る結果を残し続けるだろう、という主旨だった模様です。


(関連記事の内の一つ)

http://www.marketwatch.com/story/ubs-rates-berkshire-hathaway-a-buy-with-or-without-warren-buffett-2016-03-28


この見解は短期的にはほぼ確実であろうと思うものの、中長期的には疑問符がつくと思います。


Buffettのこれまでの投資基準は基本的に「バカが経営者になったとしても永続的に競争力を維持し続けるであろう」企業への投資であり、BuffettがいようといまいとBerkshire傘下の企業が繁栄する様な仕組みをBuffett自身が作り上げてきました。従って、Buffettが去った後もBerkshireは短期的には、ほぼ間違いなくs&pを上回る結果を残すことになるでしょう。


一方で、中長期的に疑問符がつくのは主に2つの理由からです。


1点目は、これまで永続的な競争力が高い企業への投資をしてきた結果、Berkshireの規模が大きくなっていることが挙げられます。これまでのように純資産の増加率を高く維持し続けるだけの規模が大きく永続的な競争力のある企業の買収機会は確実に少なくなっている上に、仮に機会があったとしても高い価格を支払わなければならない機会が増えるはずです。Berkshireは成長するほどs&pに近づいていく運命にあると言えます。この点はBuffett自身も既に起きている現象として株主に説明しています。


2点目は、企業文化が変わることによって、Buffettの後任が大型買収で高値掴みをしてしまう可能性が高くなることが挙げられます。Buffettが去った後、これまでの企業文化を維持する為、Berkshireの象徴としてBuffettの息子が会長となり、これまでBuffettが担ってきたCOOとCIOの役割を分離させることが決められています。但し、実際に起こるであろうことは、株主による次期COO・CIOとBuffettとの比較であり、1点目で述べた様に構造的にBerkshireの純資産増加率が低下せざるをえない中、経営者としてのプライドを保つ為、高値を以ってしてもM&Aをする風潮が出来てしまい、新たに決めた投資によって結果がs&pに近づいていく、という結果になってしまう恐れがあります。


Berkshireの分割等、Buffettが去った後の企業統治体制は話題に事欠きませんが、未だに抜本的な解決策が提示されていない中、Buffettが如何なる対策を残してBerkshireを去るのか、注目されます。



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「わらしべ長者」バフェット

バフェットは自身を含む富裕層に対する税率が安いとして、しばしば増税論を口にします。また、所得税に限らず、生まれた家庭の違いによってその子供の裕福度が変わるのは不公平との理由で相続税の増税も唱えています。


一方、自身が経営するバークシャーに関しては、M&Aを含む取引に対する課税を可能な限り回避する姿勢が見て取れます。バフェットの節税スキームは勿論合法であり、会社の経営者のみならず、M&Aに関わる業務に従事するサラリーマンもそのスキームについて知っておいても損はないだろうと思っています。


今回は2014年にバークシャーがP&Gから電池事業であるDuracellを買収した際に使用した「Cash-Rich Split-Off」という手法をご紹介したいと思います。


バークシャーはP&Gの発行済株式の内、1.9%を保有していました。かねてより保有していたGilletteが2005年にP&Gに買収された際、P&Gの株主となりました。バークシャーの2014年のAnnual Reportによると、P&G株式の取得コストは336百万ドルですが、時価は4,683百万ドルと14倍程度まで上昇していました。仮にこの全株式を売却したとすると、Capital Gainに対して35%程度課税されてしまいます。課税額は単純計算で1,500百万ドル程度になります。出来るのであれば避けたいくらい多額な金額です。


一方、当時のP&Gはブランドの絞込みをしていました。Duracellはそこそこ儲かる事業ではあるけれど、いわゆる"Non-core asset(非中核事業)"と分類され、P&Gとしては売却したいリストに入っていました。


P&G株式を売ってもよいが、多額のCapital Gain Taxを避けたいバークシャー。Duracellをなるべく高い金額で売却したいP&G。この両者を結びつけたのが「Cash-Rich Split-Off」というM&Aの手法でした。


順を追ってこの手法を説明したいと思います。前提としてバークシャーが約4,700百万ドル相当のP&G株式を保有していることを頭の片隅に置いて下さい。


まずはP&GがDuracellを切り離します。


次にP&GがDuracellに電池事業2,900百万ドル相当と現金1,800百万ドルを移管します。このとき、現金(若しくは同等物)は全資産の1/3以下でなければなりません。



最後にバークシャーが4,700百万ドル相当のP&G株式をP&Gに譲渡すると同時に、P&GはDuracellの株式をバークシャーに譲渡します。


この一連の取引を以てすると、P&Gもバークシャーも無税で取引を完了させることが出来、両者にとってWin-Winな状況が作れる、という訳です。


ちなみにこの取引ではバークシャーはDuracellの事業が2,900百万ドル以上の価値があると見込んで譲り受けたわけですが、この当時、DuracellはEBITDAが414百万ドルだったので約7倍、FCFが270百万ドルだったので約11倍程度との評価を下したことになります。


バフェットが2005年に336百万ドルで取得したP&G株は毎年平均年率35%の割合で上昇していき、2014年に約4,700百万ドルをつけました。本来であればCapital Gainに対して課税され、約3,200百万ドルしか手元に残らないところを無税で、物々交換の様な形で2,900百万ドルの電池事業と現金1,800百万ドルを手にいれたバフェットはまさに「わらしべ長者」と呼べるのではないでしょうか。


尚、この取引は2016年中に完了し、Duracellの事業益は将来にわたってバークシャーに利益をもたらすことが見込まれています。



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バフェットの名言の行間を読む①「株の理想の保有期間は”永遠”だ」

1988年のバフェットから株主への手紙の中で、バフェットは株の保有期間に就いてこう述べています。


Quote

In fact, when we own portions of outstanding businesses with outstanding managements, our favorite holding period is forever.

Unquote


「優れた経営陣がいる傑出したビジネスを保有する際、我々が望ましいと考える保有期間は"永遠"だ」ということです。


不思議ですね。株式は"安く買って高く売る"のが基本なはずです。仮に同じ株式であっても、株価は乱高下するので割安なときに仕込み、割高になったら売る、ということを繰り返したほうが株主であるバフェットの手元に残るお金は多いはずです。


実はこの名言の裏には、税金の存在があります。1999年の同じくバフェットからの手紙を見てみましょう。


Quote

Through my favorite comic strip, Li'l Abner, I got a chance during my youth to see the benefits of delayed taxes,....

Unquote


「benefits of delayed taxes」、つまり税金を繰り延べることのメリットを説明しています。この手紙の中でバフェットは漫画『リル・アブナー』の例を挙げて説明しています。話を要約するとこういうことになります。


「主人公リル・アブナーが恋した美女はお金持ちでなければ結婚できなかった。そこでモーゼ老人はアブナーに対してこうアドバイスした。『今持っている1ドルを20回2倍にしたら1百万ドルを手に出来るぞ』


真面目なアブナーは老人の教えに従って1ドルを毎年2倍にした。だが、20年を過ぎても2万ドルしか手元に残らなかった。1百万ドルを手にしたのはその8年後のことであった。」


モーゼ老人は税金の存在を忘れていました。毎年生まれるCapital Gainに対して35%の連邦税がかけられていたのです。



話は続きます。


「仮に老人がアブナーに対して『1ドルを年々倍になっていく一つの対象に投資してずっと保有していなさい』とアドバイスしていたら20年目に1百万ドルの資産を持っていたであろう。」


株は保有し続け売却しない限り、Capital Gainに関わる税金を繰り延べることが出来ます。アブナーが売却と課税を避けることが出来ていたら28年目には手元に221百万ドルが残り、毎年売買をしていたケースと比べると220百万ドルも多く手に出来ることが出来ます。


バフェットが好む"永遠"の裏には"永遠に税金を繰り延べたい"という意図が含められていたことがわかります。


ちなみにアブナーは、28年後にその美女にプロポーズしようとしたものの、そのとき既に美女ではなくなってしまっていたとのことでした笑



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