ウォーレン・バフェット ウォッチャー

"投資の神様"と名高いウォーレン・バフェット氏をウォッチするブログ。同氏がCEOを務めるバークシャー・ハサウェイ社の動向と関連する情報をフォローする。

「わらしべ長者」バフェット

バフェットは自身を含む富裕層に対する税率が安いとして、しばしば増税論を口にします。また、所得税に限らず、生まれた家庭の違いによってその子供の裕福度が変わるのは不公平との理由で相続税の増税も唱えています。


一方、自身が経営するバークシャーに関しては、M&Aを含む取引に対する課税を可能な限り回避する姿勢が見て取れます。バフェットの節税スキームは勿論合法であり、会社の経営者のみならず、M&Aに関わる業務に従事するサラリーマンもそのスキームについて知っておいても損はないだろうと思っています。


今回は2014年にバークシャーがP&Gから電池事業であるDuracellを買収した際に使用した「Cash-Rich Split-Off」という手法をご紹介したいと思います。


バークシャーはP&Gの発行済株式の内、1.9%を保有していました。かねてより保有していたGilletteが2005年にP&Gに買収された際、P&Gの株主となりました。バークシャーの2014年のAnnual Reportによると、P&G株式の取得コストは336百万ドルですが、時価は4,683百万ドルと14倍程度まで上昇していました。仮にこの全株式を売却したとすると、Capital Gainに対して35%程度課税されてしまいます。課税額は単純計算で1,500百万ドル程度になります。出来るのであれば避けたいくらい多額な金額です。


一方、当時のP&Gはブランドの絞込みをしていました。Duracellはそこそこ儲かる事業ではあるけれど、いわゆる"Non-core asset(非中核事業)"と分類され、P&Gとしては売却したいリストに入っていました。


P&G株式を売ってもよいが、多額のCapital Gain Taxを避けたいバークシャー。Duracellをなるべく高い金額で売却したいP&G。この両者を結びつけたのが「Cash-Rich Split-Off」というM&Aの手法でした。


順を追ってこの手法を説明したいと思います。前提としてバークシャーが約4,700百万ドル相当のP&G株式を保有していることを頭の片隅に置いて下さい。


まずはP&GがDuracellを切り離します。


次にP&GがDuracellに電池事業2,900百万ドル相当と現金1,800百万ドルを移管します。このとき、現金(若しくは同等物)は全資産の1/3以下でなければなりません。



最後にバークシャーが4,700百万ドル相当のP&G株式をP&Gに譲渡すると同時に、P&GはDuracellの株式をバークシャーに譲渡します。


この一連の取引を以てすると、P&Gもバークシャーも無税で取引を完了させることが出来、両者にとってWin-Winな状況が作れる、という訳です。


ちなみにこの取引ではバークシャーはDuracellの事業が2,900百万ドル以上の価値があると見込んで譲り受けたわけですが、この当時、DuracellはEBITDAが414百万ドルだったので約7倍、FCFが270百万ドルだったので約11倍程度との評価を下したことになります。


バフェットが2005年に336百万ドルで取得したP&G株は毎年平均年率35%の割合で上昇していき、2014年に約4,700百万ドルをつけました。本来であればCapital Gainに対して課税され、約3,200百万ドルしか手元に残らないところを無税で、物々交換の様な形で2,900百万ドルの電池事業と現金1,800百万ドルを手にいれたバフェットはまさに「わらしべ長者」と呼べるのではないでしょうか。


尚、この取引は2016年中に完了し、Duracellの事業益は将来にわたってバークシャーに利益をもたらすことが見込まれています。



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