ウォーレン・バフェット ウォッチャー

"投資の神様"と名高いウォーレン・バフェット氏をウォッチするブログ。同氏がCEOを務めるバークシャー・ハサウェイ社の動向と関連する情報をフォローする。

バフェットと保険事業

前回ブログのバフェットとハリケーン - ウォーレン・バフェット ウォッチャーで述べた通り、バフェットがCEOを務めるバークシャー・ハサウェイ社は傘下に損害保険・再保険(保険会社の為の保険)会社を抱えています。昨年、その再保険会社が日本の地震保険の再保険事業に進出する計画が報道されたので、ご存知の方も多いかと思います。(詳細はバフェット系保険、日本進出 バークシャー・ハザウェイ傘下 地震保険を再保険 :日本経済新聞参照)


リスクを避けることで有名なウォーレン・バフェットですが、保険・再保険はハリケーンの様な大規模な災害が起こった場合、被保険者(お金を払って保険を購入している法人・個人)に対して多額の保険金を支払う必要があり、大規模な損失を計上することが避けられない事業なのでリスクが高い様に見受けられます。それでも、バフェットはバークシャーの中核事業として保険・再保険に取り組んでいます。何故なのでしょうか?


その理由を知る為には、保険(若しくは再保険)の事業形態を理解する必要があります。保険会社は、特定のイベント(※ここが重要!)を避けたいと思っている多数の被保険者から少額の保険金を預かり、そのリスクが顕在したとき、被害を受けた被保険者に対し、予め決められたルール(※ここも重要!)に則って保険金を払う仕組みを提供しています。


少々複雑なので、バークシャーの自動車保険を例に考えてみましょう。


自動車保険会社は、「自動車事故を引き起こしてしまうことによって、多額の損害賠償金(100万円)を支払うこととなるイベント」を避けたいと思っている100人の被保険者から夫々1万円ずつ徴収します。被保険者が自動車事故を引き起こしてしまう確率は1%です。案の定、事故が起こった場合、自動車保険会社は100万円を預かり、自動車事故を引き起こした100人の中の1人に対し、「自動車事故を引き起こして100万円の損害賠償金を支払うこととなってしまった被保険者に対して全額負担します」というルール通り、100万円を支払うことになります。その他の99人は無事故で無事に過ごしたか、自動車事故を起こしたとしても、予め決められた損害賠償金の支払い事由に該当しなかったので、自動車保険会社は1円も支払いません。


では、自動車保険を引き受けていることによる自動車保険会社の利益は幾らでしょうか。上述した通りの単純な引き算であれば、100万円 - 100万円=0です。一見、「損する」リスクがゼロである一方、「儲かる」リスクもゼロな商売の様にも見受けられます。バフェットがお金持ちになることが出来た理由が他にあるとしか思えません。


ところが、この計算式ではお金の「時間的価値」の概念が抜けています。今日の100万円と1年後の100万円ではどちらが価値が大きいでしょう、というファイナンスの授業の初日で習うアレですね。


被保険者が自動車事故を引き起こしてしまう確率が1%だとしても、そのリスクが顕在化するタイミングが明日か100年後かによって、自動車保険会社の利益は大きく変わってきます。


先程述べた100万円 - 100万円=0の計算式は、リスクが顕在化(つまり、自動車保険会社にとっては、100万円を支払わなければならない事由が発生)するタイミングと、被保険者が保険金を支払うタイミングが同じ、という前提で成り立ちます。仮に、そのタイミングが100年後であった場合、自動車保険会社は初日に100万円を手にする一方、支払いのタイミングは100年後なので、その間に100万円を運用することが出来ます。実は、この100万円こそが「フロート」と呼ばれるバフェットが大好きな資金で、保険事業を利益を生み出すものにしている要因になります。「フロート」が無利子であることも、非常に重要な特徴です。銀行から資金調達をした場合、少なくとも利子を払う必要がありますが、保険事業で得られる「フロート」は無利子で手に入れられる一方、イベントが顕在化するまでは運用して増やすことが出来ます。


保険事業は初日に得た「フロート」が、初日に顕在化したイベントによって失くなってしまうリスクはありますが、それでも利益はゼロ、とマイナスにはなっていない訳で、イベントが顕在化するまでの間、「フロート」を運用に回して増やすことが出来るということから考えると、どうやってもマイナスになることがない事業ということになります。


やはり、大金持ちになる秘訣は、「損するリスクを如何に避け、得するリスクを最大化するか」ということなのだと考えさせられます。

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