ウォーレン・バフェット ウォッチャー

"投資の神様"と名高いウォーレン・バフェット氏をウォッチするブログ。同氏がCEOを務めるバークシャー・ハサウェイ社の動向と関連する情報をフォローする。

バフェットとコカコーラ①

砂糖税の導入・プライベートブランドの台頭等、何かと逆風の強い清涼飲料メーカーですが、バフェットのコカコーラへの支持は変わる気配がありません。


2015年のバークシャーのAnnural Reportを読み解くと、バークシャーはコカコーラの発行済株式総数の内、9.3%を保有する大株主です。2015年のコカコーラの税後利益は$7,351 百万(約8,300億円)でしたので、単純計算で約$680百万(約770億円)がバークシャーの持分になります(一方、バークシャーの損益計算書に表れるコカコーラの利益は配当のみです)。 莫大な利益であることは間違いないのですが、今ひとつこの数字がピンとこない方も多いと思います。


そこで缶ジュース一本当たりの利益構造を紐解いて、その内バークシャーが幾ら儲けることが出来るのか、という視点で考えてみたいと思います。


日本での自動販売機で販売されている缶ジュースの価格は一本130円。仮にコカコーラが販売する飲料が全て130円だったとして、2015年の損益計算書を缶ジュースに見立ててみました。


売上原価(甘味料や缶等)が50円と約40%を占めていることがわかります。コカコーラの利益の源泉はそのブランドイメージ、そのブランドイメージを形作っているのは広告・宣伝費ですが、11円と約10%を占めています。


さて、文字通りbottom lineとなっている利益ですが、21円と約15%程度です。これを高いと見るか低いと見るかは人それぞれだと思いますが、税前の利益が20%以上(税金と併せて27円)取れているビジネスであることを考えると、やはり割がいいと言わざるを得ないでしょう。


この税後利益の内、バークシャーの持分は9.3%。つまり、21円 * 9.3% =約2円です。


あなたが何気なく買っている缶ジュースの2円がバークシャーの利益となっている。こういった視点で考えても面白いのではないでしょうか。



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バークシャー・ハサウェイ社は買いか?

最近、「バークシャー・ハサウェイ社の株価は適正なのか?」という論調の記事をよく目にします。2015年のS&P 500の株価上昇が1.4%に留まったのに対して、バフェットが企業の価値増減の目安としているバークシャーの1株当たりの純資産増加が6.4%と大幅に上回っていた為にバークシャーを見直す動きが出てきているのかもしれません。


仮にバークシャーの株を購入する際、今の株価が高いのか安いのか、どの様に考えればいいのでしょうか。「"投資の神様"がCEOを務めている会社の株だから。」「今まですごい勢いで株価が上がってきたから今後も上がるんじゃないの?」という理由も一理あるとは思いますが、これでは財布の紐にシビアで数字に強いあなたの奥さん(若しくは旦那さん)を説得することは出来ません(笑) 


沢山ある記事の中から、バークシャーの本質的価値("Intrinsic Value")と時価に就いて示している記事を1つピックアップしてみました。


http://www.fool.com/investing/general/2016/03/24/berkshire-hathaway-is-35-undervalued.aspx


この記事では2015年のバークシャーのAnnual Reportの数字を使って、Intrinsic valueを①1株当たりの現金・投資("資産")と②1株当たりの利益("収益力")に分けて考えています。1株当たりの価値を①$107/share + ②$82/share = $189/shareと計算出来る為、時価$140/shareと比較すると35%も割安なのではないか、という論調です(数字は全てclass B換算)。


実はこの記事に使われている方法はまさに、バフェットが同社のAnnual Reportの中で述べているIntrinsic Valueを算出する方法なのです。但し、記事とAnnual Reportの違いは具体的な数字を提示しているかどうかにあります。バフェットはAnnual Reportの中でIntrinsic Valueはバフェットとマンガー(同社会長)の間でも異なり、更に、金利や将来Cash Flowの変化で容易に変わってしまうものだと述べ、具体的な数字を株主に提示していません。上記の記事も、収益力の部分を1株当たりの年間税前利益$8.2の10倍を前提として計算したもので、"10倍"の数字自体は意味がないものになっています。


この収益力のmultiple(倍数)がどれほどIntrinsic Valueの計算にインパクトを与えるか実際に計算してみましょう。


仮にこの"10倍"を"15倍"とすると、バークシャー株のIntrinsic Valueは$230/shareとなり、64%ものdiscountを受けている計算となります。非常に割安な価格で買えますね。


一方、"10倍"を"5倍"とすると、バークシャー株のIntrinsic Valueは$148/shareとなり、6%しかdiscountを受けておらず、略fair valueで取引されている計算となります。


上記からわかる通り、1株当たりの年間税前利益に対するmultipleでIntrinsic Valueが大きく変わってしまう為、バフェットは数字をAnnual Reportに記載していないものと推測出来ます。


では、バークシャーの株を購入するにあたり、今の株価が高いのか安いのかを判断する根拠となるもっと確からしい数字は無いのでしょうか?


実はもう一つ、バークシャーの自社株買いの水準が目安となります。2012年以来、バークシャーは"純資産の120%"を自社株買いの目安としてきました。時価がこの水準以下であるのであれば、他に更に魅力的な投資案件が無い限り、バークシャーは自社の株を買取り、引き続き株主である人々の為に1株当たりの価値を上げるということです。


2015年末時点での1株当たり純資産は$104/shareでしたので、20%を上乗せすると$124/shareが現在の自社株買いの目安となっているはずです。

現時点ではこの目安以上で取引されていることになりますが、過去5年間だけを振り返っても"120%"以下で取引されていた期間もあり、多くの投資家にとっては購入のチャンスであったと言えるでしょう。


(以下のychartでは株価÷純資産が一目瞭然です。)

https://ycharts.com/companies/BRK.A/price_to_book_value


実際には自社株買いをした後、すぐに株価がその水準以上に戻るか否かは神のみぞ知るところですが、理論的・長期的には株価は戻ることになります。


数字が確たるものでなく、常に変動してしまうIntrinsic Valueを目安とするよりも、自社株買い水準まで株価が下がるタイミングを待って投資することが一番保守的で、あなたの奥さん(若しくは旦那さん)との関係を考えると健全なのかもしれません(笑)



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バークシャー・ハサウェイ社のポートフォリオ (2015.9.30)

今回は企業の本質的価値と会計原則の関係を考えてみたいと思います。


Warren BuffettがCEOを務めるBerkshire Hathawayが13F(*)をSECに提出しました。”Big 4"と呼ばれるWells Fargo・Coca Cola・IBM・AMEXがportfolioの約半分を占める構図に変わりない一方、Goldman Sachs・Wal Martの保有株式を減らしたことが報道されております。

(13Fより作成、US$百万)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NXWRLP6K50Y901.html


上記の13Fで報告されている企業で、当該企業の発行済株式数に占めるBerkshireの持分割合が20%以上である企業はKraft Heinz(Berkshire持分:約27%)とUSG(同持分:約27%)のみとなっております。USGに対する投資の会計処理は不明ですが、Kraft Heinzは持分法にて取り込まれていることが確認出来ます。


※2015年3Q決算(10-Q)より抜粋
Qte
We account for our investment in the common stock of Kraft Heinz on the equity method. We include our proportionate share
of net earnings attributable to common stockholders and other comprehensive income in our Consolidated Statements of Earnings and
Comprehensive Income.
Unqte


では、残りの企業、特にexposureの大きいBig 4は如何なる会計処理がなされているのでしょうか。この点がまさにNet Earningsに含まれないものの、本質的には"Earnings"となる部分なのです。


2014年のBig 4のnet earnings(※before discontinued operationsなのでnet earningsとは一致しないはず)は$4.7 bil.にも上りましたが、その内、BerkshireのNet Earningsとされるのは配当として受領した$1.6 bil.のみであり、差分の$3.1 bil.は企業にretainされます。このretained earningは企業の自社株買い(売却しない限りBerkshireの持分は新たなcash out無しで増加)、或いは成長投資に使われることとなり、将来的にはBerkshireへの配当増額(即ちNet Earnings増加)、更なるUnrealized Earnings増加に繋がることとなるのです。


※2014年Annual Reportより抜粋
Qte
If Berkshire’s yearend holdings are used as the marker, our portion of the “Big Four’s” 2014 earnings
before discontinued operations amounted to $4.7 billion (compared to $3.3 billion only three years ago). In
the earnings we report to you, however, we include only the dividends we receive – about $1.6 billion last
year. (Again, three years ago the dividends were $862 million.) But make no mistake: The $3.1 billion of
these companies’ earnings we don’t report are every bit as valuable to us as the portion Berkshire records.


The earnings these investees retain are often used for repurchases of their own stock – a move that
enhances Berkshire’s share of future earnings without requiring us to lay out a dime. Their retained
earnings also fund business opportunities that usually turn out to be advantageous. All that leads us to
expect that the per-share earnings of these four investees, in aggregate, will grow substantially over time
(though 2015 will be a tough year for the group, in part because of the strong dollar). If the expected gains
materialize, dividends to Berkshire will increase and, even more important, so will our unrealized capital
gains. (For the package of four, our unrealized gains already totaled $42 billion at yearend.)


Our flexibility in capital allocation – our willingness to invest large sums passively in non-controlled
businesses – gives us a significant advantage over companies that limit themselves to acquisitions they can
operate. Our appetite for either operating businesses or passive investments doubles our chances of finding
sensible uses for Berkshire’s endless gusher of cash.


Unqte


企業のnet earningsの使い道は①成長投資、②自社株買い、③配当の3つに分類出来ますが、③に対しては課税されることを考えると投資家・企業経営者の優先順位を鑑みるに①・②に劣後するはずです。Big 4のビジネスがgoing concernであり、且つ、企業経営者が資本の割当に対して無責任でないのであれば、Berkshireが配当として受領しNet Earningsに含めた$1.6 bil.と投資先にretainされた差分の$3.1 bil.では後者の方が優先順位が高い資本であり、価値があるものと考えることが出来ます。投資元(今回の例ではBerkshire)は投資先の優先順位の低い資本をNet Earningsに含められるものの、更に価値ある資本は含めることが出来ない、という会計の皮肉を忘れてはいけないでしょう。


(*) 米国における保有証券に関する開示規制の1種。米国において、1億ドル以上を投資する全ての機関投資家は、四半期毎に保有する株式(普通株、プット/コールオプション、クラスA株)をSECに報告する義務がある。



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